思い出分け
ご葬儀の萩原様。
故人の光子様は裁縫や編み物が得意でご自分で編んだものや仕立てたものを沢山お持ちでした。
その腕前はプロ顔負けで、なんと入学式や卒業式に着るスーツも手作りです。
お仕事はとても丁寧で、縫い目も全く見えないように作り込まれてあり、作られて年数がかなり経ったものでも糸のほつれなど全くありません。
娘様とお話をして、当初はスーツ2着をお棺に入れて差し上げる予定でした。
ご葬儀当日、ニットを2着追加でご用意して下さっていたのですが、それがあまりにもお洒落で可愛らしく大変素敵な作品だったの、受付をされていたご親族が
「本当にこれすごく良いね!まだ着られるよね。」
「私たち、いくらでも着るよね」
とお話をされていたのを聞かれていた娘様から
「他の服を持ってきて皆様に持って帰っていただいても良いものですか?」
というご相談を受けました。
「もちろんです!皆様だけでなく光子様も喜ばれますよ、是非お持ちください」
とお伝えし、急遽作品を持ってきていただくことになりました。
すると衣装ケースいっぱいのお洋服をお持ち下さいましたので、ハンガーラックに飾り付けて『光子様のブティック』が完成しました。
飾り付けの最中、ちょうどご友人方が焼香にお越しになり、
「光子様のお作りになられたオートクチュールです。
よろしければ、お持ち帰り下さい」
とご案内したところ、皆様楽しそうに光子様との想い出話に花を咲かせながら洋服をご覧になり、ハンガーに作品をかけるそばから次々に持って帰って下さいました。
あっという間に30着はあったお洋服の行き先が決まりました。
娘様は
「私には価値が分からないんです。着ないから。」
とおっしゃっていましたが、光子様のお話をしながら作品に触れ皆様が喜ぶお姿を見て、とても嬉しそうな顔で微笑まれていました。
娘様のご主人様から
「今後はこんな式が増えると良いですね」というお声もいただきました。
ご友人方がその洋服に袖を通す度に、光子様を思い出していただける。
そんな『思い出分け』ができて良かったと感じたお式となりました。